男女和合の性神 ◎生駒の聖天◎
基本情報
作者:不明
奇譚クラブ 1952年6月号 P57 掲載
パブリックドメイン :保護期間満了の為
タイトル
男女和合の性神 ◎生駒の聖天◎
本文
聖天即ち歓喜天は密教の天部の一つであつて、象頭人身の男女の相抱合した性神をその本像とする。除病、壊災、治病、致富等諸方面に亘る施福神として諸人に尊崇せられているが、その中でも男女の和合に著しい靈験があると称えられて、花柳界の女子に大いに信仰されている。
畿内で最も繁昌しているのは、「生駒の聖天さん」と呼ばれている生駒山の宝山寺に安置sされてある大聖歓喜天であつて、毎月一日と十六日の縁日には、京阪神の花柳界の姐さん連が押し寄せ、毎月の参詣者は二千人を下らぬという有様で、生駒駅は紅紫とりどりの時ならぬ艶めかしさに彩られる。参詣者たちは、清酒、団子、大根等を捧げて施福を祈るるのである。
象首人身の男女二体より成る性神聖天の像は厨子の内に深く安置されてあるから、参詣人には見えない。それに対して大事な祈願をかけるには、浴油供といつて、深夜僧侶一人、胡麻油を盛つた銅器の内に聖天の像を入れ、依頼者の願事を唱えながら、匙で油を象頭に注ぐのである。聖天に対する供養法には、此の浴油の外に、酒供、花水供というのもある。
昔は生駒山の麓にある河内の住道から山頂まで、五十八町の坂を一歩進んでは三拝しながら、五十日程も費して参詣する修行者もあつたが、今ではケーブルカーで一足飛びである。迷信深い花街の女たちを目当てに妖しげな祈禱を施す白衣の男が出没するのも此の辺りである。(終)
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